もしもあなたが孫家の人間でないならば。
もしもあなたが殿のものでなかったならば。
もしもあなたを抱きしめられたなら。
そういった想いが私に見せるのか。
このおかしな夢を。
『キミじゃないキミの夢を見た』
「子龍!子龍!来て!!雪だよ!!」
無邪気に笑う彼女は、孫尚香という名の町娘。
私が町に視察に出ていた時に出会い、そして恋に落ちた。
数ヶ月後、私は彼女を妻に迎え入れることを決意する。
殿にそのことを伝えると、「やっと子龍も独身卒業か」と笑って祝福してくれた。
関羽殿も張飛殿も諸葛亮殿も、皆、私と彼女を祝福してくれた。
「そ〜れ!必殺、雪玉投げ!」
「うわっ!やったな、尚香!」
ここでは彼女の名前を呼ぶことが許されている。
彼女とこうして雪合戦をすることも、冷たくなった手を暖め合うことも。
彼女を抱くことも。
――こんなに小さかったんだ。
遠くから見ている分には小さいと感じたことはなかった。
でも今ここにいる彼女は確かに小さく感じる。
「子龍……」
「なに?」
「今度雪が降ったら、雪だるま作ろう。」
「雪、だるま……?」
二つの雪だるま。
一つは男の子。
一つは女の子。
二つの雪だるまは仲良く手を結んで。
「うん、阿斗君よりも大きいの作ってびっくりさせちゃおう!」
二つの雪だるまは笑って。
「……そうだな。一緒に作ろう。」
そして、二つの雪だるまは一緒に熔けていく。
「約束だからね。」
あなたが笑っている。
いつも寂しげな顔をしていたあなたが、笑っている。
なんて幸せな夢だろう。なんて心地が良い夢だろう。
いつまでも見ていたい。
でも起きなければ。
本当のあなたは今、苦しんでいるはずだから。
『劉玄徳は愛する弟の仇、孫呉を討つ――!!』
あの人を止める。
彼女が手に入らないことはわかっているけど。
でもあの人に奪われたくはない。
だから、起きなければ。
「子龍?」
もしもあなたが孫家の人間でないならば。
もしもあなたが殿のものでなかったならば。
もしもあなたを抱きしめられたなら。
こんな生活もあったのだろうか。
「いってきます。」
ありがとう。
いい夢を見せてくれてありがとう。
だけど、私は行くよ。
最後に私は彼女の額にキスをして、彼女をぎゅっと抱きしめた。
彼女は一瞬寂しげな顔をした気がしたけれど、次の瞬間には笑って、
「いってらっしゃい。」
と言った。
薄れて消えていく最後まで、彼女は笑っていた。
夢の中で私たちは夫婦だった。
皆、祝福してくれた。皆、笑っていた。
雪が降っただけで無邪気に笑うあなた。
名前も呼ぶことも許される。
手を暖めあうことも。
抱くことも。
夢の中で私たちは仲間だった。
これが幸せの形。
でもこれはただの夢なんだ。
本当のあなたは……
「お目覚めですか。趙雲殿。」
目が覚めて最初に見たのは諸葛亮殿の顔。
そうだ、私は殿の意志に反対して、諸葛亮殿と共に留守を任されたのだ。
でも、私は行かなければならない。
本当の彼女は今、泣いているはずだから。
「いくのですか?」
と言う諸葛亮殿は全て見抜いているようだった。
「ええ。」
本当の彼女の笑顔が見たい。
手に入らなくてもいい。
抱きしめられなくてもいい。
名前を呼べなくても。
ただ、笑顔が見たいんだ。
「いってきます。」